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「 Beloved 〜 凍てつく炎 〜 」 file #4
2015.09.28 23:00
0
    7月27日(月) 朝 待機宿舎


    やっと見つかったのか。
    取り敢えずは新聞を閉じる。思ったより小さい記事だったな。東京で身元不明の変死体発見なんて、そう珍しくもないって事か? 嫌な世の中だ。
    あの辺りは使われてない倉庫や事務所が多くて、すぐには発見されないだろうって言ってたけど、本当だったんだな。あそこが、一番足が付き難いって。
    最初は、誰だっけな、あの人が昔世話になったとかいうあそこのオーナーの事を気にしてたみたいだけど。そりゃあ他人の敷地に、勝手に人間の死体を放置すれば、有り得ないくらい迷惑だし。でも、その事はすぐに言わなくなったな。
    「何しろ、顔が広い人だから」
    何が起こっても、さらっとうまく切り抜けてくれるはずだって。一体そのオーナーってどんな奴なんだよ。
    まあ、そう言うあの人も、相当なものだと思うけど。お陰で今回、色々勉強させて貰ったよ。
    毎日、複数の新聞とネットニュースを隅々まで見て回るのも飽きてきたところだ。テレビのニュースやワイドショーでも、大々的に取り上げられてる訳では無さそうだし。でも、続報があるかどうか分からないけど、一応まだしばらくはチェックした方がいいな。

    「今度、瑛次に会って貰いたい人がいるの」
    姉さんからそう言われた時は本気で吐き気がした。
    あれは三か月程前だったか。去年くらいから、姉さんが時々あの男と会ってるのは知ってた。でも、たまにひと月くらい全く会わなくなる時もあって、本当に付き合ってるのかどうか、ずっと確信が持てなかったんだ。
    でも姉さんから直接言われれば疑いようが無い。やっと本腰を入れて張り付きだしたけど、ちょうどその頃から急に仕事が忙しくなってきて。非番の日もしょっちゅう呼び出されて、中々思うように時間が取れなくて。それでも、どうにか地道に動いてはいたんだ。

    そして先月。偶然、あの人と出会った。
    俺はずっと一人だったけど。あの人も、多分そうだと思う。
    こんな事は初めてだったよ。

    昨日は非番で、やっと姉さんと会う事ができた。
    うまく姉さんの休みと合わせられないと、ゆっくり話す機会を作れないというのも、いい加減もどかしい。
    姉さんが、あの男と連絡が取れなくなったって、不安がってたな。またあのストーカーに何かされたんじゃないかって。
    それであの男がいなくなった事を警察に届けようとしてたみたいだけど、親族でないと捜索願は出せないって言ったら、驚いてた。付き合ってるだけじゃ無理だって事、きっと知らなかったんだろうな。
    一応、あの男の家族の連絡先を知ってるのか訊いてみたけど、それも知らないって言ってたし。
    それはそうだろうと思うよ。あの男がそんな事を姉さんに教えるはずが無い。
    それどころか、あの男は姉さんを自分の家に連れてった事も無かったらしい。なんだかんだと理由を付けて、詳しい住所すら教えずに、いつまでも有耶無耶にしてやり過ごしてたんだろうけど。そういう事をしてるから最終的に身元不明の変死体で発見される羽目になるんだよ。自業自得だろ。
    姉さんは、近々向こうの家族と引き合わせて貰う約束だったって言ってたけど、それも。端からあの男に姉さんを自分の家族に会わせる気なんかあるものか。もっと早くちゃんとお願いしておけばよかったって悔んでたけど、それは姉さんのせいじゃないよ。俺とだって、あの男は会うつもりなんて欠片も無かったと思うよ。
    もうそろそろ気付いてくれよ。
    あの男が姉さんに嘘ばかり吐いてた事に。

    今日は週休、姉さんの仕事が終わるのを待って、もう一度会いに行く。
    これから俺と一緒に暮らそうって、話そうと思う。
    あんな男に騙されて、姉さんが傷付いて苦しんでる今だからこそ。きっと分かってくれると思う。
    早く姉さんを立ち直らせてあげたい。厭わしい過去は早く忘れた方がいいんだ。
    どいつもこいつも最低な奴ばかり。もうこれ以上、姉さんが傷付けられるのを黙って見てるなんて耐えられない。
    これからは、俺が一番近くで、姉さんを守る。
    二人で暮らす事が決まれば、この宿舎からも出る事になる。実の姉と同居するんだから、引っ越し先がここからそう遠い場所でさえなければ不許可になる事も無いだろうし。申請書類を提出しなきゃ。次の養成校の選抜試験のための勉強もしなければならない。国試取得を目指して、やる事は山程ある。
    早く充分な収入を得られるようになりたい。そうなれば、姉さんだってきっと喜んでくれるはずだ。
    そのためには、どんなに実務や訓練がきつくても、まずしっかり勉強して資格を取る事。そして、そこからもまだ先は長い。

    軽く息を吐き、読んでいた新聞を片付ける。
    証拠は全部完璧に処分したし、多分これも最終的にはお宮入りになってくれるだろう。これまでも、一度もばれた事なんて無かったんだし。何より、今回はあの男の方が姉さんとの繋がりをずっと隠し続けてたんだから。もし身元が判明したとしても、警察が俺に辿り着く可能性は低い。
    「ま、動くなら早く動いた方がいい。ただし慎重にな」
    あの人がそんな事言ってたな。俺もそう思う。今回は明らかに事件になってるから、まだまだ油断はしない方がいい。
    でも、あんな格好をして偽の身分証まで作って、俺があそこの管理人に成り済ますなんて、あの人もよく考えたものだと思う。無関係の人間を装った方が、あの男の口を割らせ易くなるからって事だったけど。
    ふと、あの人がどうしてるか気になった。
    あの人の事だから、もうこの記事には目を通してるだろう。
    俺はあの男の名前と勤務先を教えただけだったのに。俺が必死で付きとめた事より、あの人が調べ上げて来た情報の方が多くて、正確だったな。
    執念だと思う。それだけ、あの人にはあの人の強い想いがあったんだ。

    あの時、俺があの男の正体を話した時、姉さんが信じてくれてたら。
    もし、姉さんがあの男と別れてくれてたら、こんな事にはなってなかったんだろうか。
    いや、それでも俺は、やはりあの男に制裁を加えていただろう。
    もう分からない。今となっては、もう。
    それに仮に俺が手を引いたとしても、あの人が。
    醒めた瞳を逸らして鼻で薄笑う、その顔が頭に浮かぶ。
    もう二度と会う事も無い。
    ああ、そう言えば。
    俺は結局、あの人の名前も聞いてなかったな。





     file #5



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